俳句

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用語一覧(293件)

001

古池や蛙飛びこむ水の音

ふるいけやかわづとびこむみずのおと

松尾芭蕉

002

閑さや岩にしみ入る蝉の声

しずかさやいわにしみいるせみのこえ

松尾芭蕉

003

秋風や白木の弓に弦はらん

あきかぜやしらきのゆみにつるはらん

向井去来

004

湖の水まさりけり五月雨

みづうみのみづまさりけりさつきあめ

向井去来

005

をととひはあの山越つ花盛り

おとといはあのやまこえつはなざかり

向井去来

006

尾頭のこころもとなき海鼠哉

おかしらのこころもとなきなまこかな

向井去来

007

螢火や吹とばされて鳰の闇

ほたるびやふきとばされてにおのやみ

向井去来

008

鳶の羽も刷ぬはつしぐれ

とびのはもかいつくろいぬはつしぐれ

向井去来

009

応々といへど敲くや雪の門

おうおうといへどたたくやゆきのかど

向井去来

010

岩鼻やここにもひとり月の客

いわはなやここにもひとりつきのきゃく

向井去来

011

うまず女の雛かしづくぞ哀なる

うまずめのひなかしづくぞあはれなる

服部嵐雪

012

蜑の子にたうとがらせん道明寺

あまのこにたうとがらせんどうみょうじ

服部嵐雪

013

よろこぶを見よやはつねの玉箒

よろこぶをみよやはつねのたまははき

服部嵐雪

014

羽子板やたゞに目出度裏表

はごいたやただにめでたいうらおもて

服部嵐雪

015

ほつほつと食摘あらす夫婦かな

ほつほつとくいつみあらすふうふかな

服部嵐雪

016

霜朝の嵐やつゝむ生姜味噌

しもあさのあらしやつつむしょうがみそ

服部嵐雪

017

ふとん着て寝たる姿や東山

ふとんきてねたるすがたやひがしやま

服部嵐雪

018

星合や瞽女も願の糸とらん

ほしあいやごぜもねがいのいととらん

服部嵐雪

019

秋も早かやにすぢかふ天の川

あきもはやかやにすぢかうあまのがわ

森川許六

020

うの花に芦毛の馬の夜明哉

うのはなにあしげのうまのよあけかな

森川許六

021

茶の花の香や冬枯の興聖寺

ちゃのはなのかやふゆがれのこうしょうじ

森川許六

022

苗代の水にちりうく桜かな

なわしろのみずにちりうくさくらかな

森川許六

023

水筋を尋ねてみれば柳かな

みずすじのたずねてみればやなぎかな

森川許六

024

もちつきや下戸三代のゆずり臼

もちつきやげこさんだいのゆずりうす

森川許六

025

あさぎりに一の鳥居や波の音

あさぎりにいちのとりいやなみのおと

宝井其角

026

稲こくやひよこを握る藁の中

いねこくやひよこをにぎるわらのなか

宝井其角

027

傀儡の鼓うつなる花見かな

かいらいのつづみうつなるはなみかな

宝井其角

028

川上は柳か梅か百千鳥

かわかみはやなぎかうめかももちどり

宝井其角

029

小坊主や松にかくれて山ざくら

こぼうずやまつにかくれてやまざくら

宝井其角

030

ちり際は風もたのまずけしの花

ちりぎわはかぜもたのまずけしのはな

宝井其角

031

夏酔や暁ごとの柄杓水

なつようやあかつきごとのひしゃくみず

宝井其角

032

鬼灯のたぐひなす身や竜田姫

ほおずきのたぐいなすみやたつたひめ

宝井其角

033

水影やむささびわたる藤の棚

みずかげやむささびわたるふじのたな

宝井其角

034

夕立や田を三囲りの神ならば

ゆうだちやたをみめぐりのかみならば

宝井其角

035

京に居て京を見る日やひな祭

きょうにいてきょうをみるひやひなまつり

蓑笠庵梨一

036

目の前の島忘れたる汐干かな

めのまえのしまわすれたるしおひかな

蓑笠庵梨一

037

春の日や遊び遊びて竹のおく

はるのひやあそびあそびてたけのおく

蓑笠庵梨一

038

したたりや蝶の眠りのさめぬほど

したたりやちょうのねむりのさめぬほど

蓑笠庵梨一

039

かげろうに口あかぬ鳥なかりけり

かげろうにくちあかぬとりなかりけり

蓑笠庵梨一

040

百合の芽や世は鬼もなき山の中

ゆりのめやよはおにもなきやまのなか

蓑笠庵梨一

041

走り帆の風休ませよ青すだれ

はしりぼのかぜやすませよあおすだれ

蓑笠庵梨一

042

まつかぜや夢吹よせて昼寝塚

まつかぜやゆめふきよせてひるねづか

蓑笠庵梨一

043

牡蠣割りや乾く間もなき袖の汐

かきわりやかわくまもなきそでのしお

蓑笠庵梨一

044

よいものを見にけり空に郭公

よいものをみにけりそらにほととぎす

蓑笠庵梨一

045

春の海終日のたりのたり哉

はるのうみひねもすのたりのたりかな

与謝蕪村

046

ちりて後おもかげにたつぼたん哉

ちりてあとおもかげにたつぼかんかな

与謝蕪村

047

花いばら故郷の路に似たるかな

はないばらこきょうのみちににたるかな

与謝蕪村

048

二村に質屋一軒冬こだち

ふたむらにしちやいっけんふゆこだち

与謝蕪村

049

夏河を越すうれしさよ手に草履

なつかわをこすうれしさよてにぞうり

与謝蕪村

050

さくら散苗代水や星月夜

さくらちりなわしろみずやほしづきよ

与謝蕪村

051

月天心貧しき町を通りけり

つきてんしんまずしきまちをとおりけり

与謝蕪村

052

朝霧や村千軒の市の音

あさぎりやむらせんけんのいちのおと

与謝蕪村

053

笛の音に波もよりくる須磨の秋

ふえのねになみもよりくるすまのあき

与謝蕪村

054

うつつなきつまみ心の胡蝶かな

うつつなきつまみこころのこちょうかな

与謝蕪村

055

ところてん逆しまに銀河三千尺

ところてんぎゃくしまにぎんがさんぜんじゃく

与謝蕪村

056

おらが世やそこらの草も餅になる

おらがよやそこらのくさももちになる

小林一茶

057

雪とけて村いっぱいの子どもかな

ゆきとけてむらいっぱいのこどもかな

小林一茶

058

春風や牛に引かれて善光寺

はるかぜやうしにひかれてぜんこうじ

小林一茶

059

雀の子そこのけそこのけお馬が通る

すずめのこそこのけそこのけおうまがとおる

小林一茶

060

涼風の曲がりくねってきたりけり

すずかぜのまがりくねってきたりけり

小林一茶

061

やせ蛙負けるな一茶これにあり

やせがえるまけるないっさこれにあり

小林一茶

062

やれ打つな蝿が手をすり足をする

やれうつなはえがたをすりあしをする

小林一茶

063

秋風やむしりたがりし赤い花

あきかぜやむしりたがりしあかいはな

小林一茶

064

名月を取ってくれろと泣く子かな

めいげつをとってくれろとなくこかな

小林一茶

065

これがまあ終の栖か雪五尺

これがまあついのすみかかゆきごしゃく

小林一茶

066

元日や上々吉の浅黄空

がんじつやじょうじょうきちのあさぎぞら

小林一茶

067

柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺

かきくえばかねがなるなりほうりゅうじ

正岡子規

068

松山や秋より高き天主閣

まつやまやあきよりたかきてんしゅかく

正岡子規

069

春や昔十五万石の城下哉

はるやむかしじゅうごまんごくのじょうかかな

正岡子規

070

牡丹画いて絵の具は皿に残りけり

ぼたんかいてえのぐはさらにのころけり

正岡子規

071

山吹も菜の花も咲く小庭哉

やまぶきのなのはなもさくこにわかな

正岡子規

072

をとゝひのへちまの水も取らざりき

おとといのへちまのみずもとらざりき

正岡子規

073

風呂敷をほどけば柿のころげけり

ふろしきをほどけばかきのころげけり

正岡子規

074

柿くふも今年ばかりと思ひけり

かきくうもことしばかりとおもいけり

正岡子規

075

紫の蒲團に坐る春日かな

しばのふとんにふわるはるひかな

正岡子規

076

鶏頭の十四五本もありぬべし

けいとうのじゅうしごほんもありぬべし

正岡子規

077

赤とんぼ筑波に雲もなかりけり

あかとんぼつくばにくももなかりけり

正岡子規

078

蕎麦白き道すがらなり観音寺

そばしろきみちすがらなりかんのんじ

河東碧梧桐

079

赤い椿白い椿と落ちにけり

あかいつばきしろいつばきとおちにけり

河東碧梧桐

080

相撲乗せし便船のなど時化となり

すもうのせしびんせんのなどしけとなり

河東碧梧桐

081

雪チラチラ岩手颪にならで止む

ゆきちらちらおろしにならでやむ

河東碧梧桐

082

ミモーザを活けて一日留守にしたベットの白く

みもーざをいけていちにちるすにしたべっとのしろく

河東碧梧桐

083

曳かれる牛が辻でずっと見回した秋空だ

ひかれるうしがつじでずっとみまわしたあきぞらだ

河東碧梧桐

084

遠山に日の当たりたる枯野かな

とおやまにひのあたりたるかれのかな

高浜虚子

085

春風や闘志抱きて丘に立つ

はるかぜやとうしだきておかにたつ

高浜虚子

086

去年今年貫く棒の如きもの

こぞことしつらぬくぼうのごときもの

高浜虚子

087

道のべに阿波の遍路の墓あはれ

みちのべにあわのへんろのはかあわれ

高浜虚子

088

波音の由井ガ濱より初電車

なみおとのゆいがはまよりはつでんしゃ

高浜虚子

089

吾も亦紅なりとひそやかに

われもまたくれないなりとひそやかに

高浜虚子

090

子規逝くや 十七日の 月明に

しきいくやじゅうしちにちのげつめいに

高浜虚子

091

流れ行く大根の葉の早さかな

ながれゆくだいこんのはのはやさかな

高浜虚子

092

ひとへもの径の麦に刺されたり

ひとへもののけいのむぎにさされたり

臼田亞浪

093

コスモスへゆきかまつかへゆき憩ふ

こすもすへゆきかまつかえゆきいこう

臼田亞浪

094

今日も暮るる吹雪の底の大日輪

きょうもくるるふぶきのそこのだいにちりん

臼田亞浪

095

元日の石蕗にすさべり伊豆の海

がんじつのつわにすさべりいずのうみ

臼田亞浪

096

朝寝して犬に鳴かるる幾たびも

あさねしていぬになかるるいくたびも

臼田亞浪

097

隣から吾子呼んでをり沈丁花

となりからあこよんでおりじんちょうげ

臼田亞浪

098

ほくほくと馬がおり来る山桜

ほくほくとうまがおりくるやまざくら

臼田亞浪

099

雪の層波なし華厳落ちに落つ

ゆきのそうなみなしけごんおちにおつ

臼田亞浪

100

あるけばかつこういそげばかつこう

あるけばかっこういそげばかっこう

種田山頭火

101

うしろすがたのしぐれてゆくか

うしろすがたのしぐれてゆくか

種田山頭火

102

ゆうぜんとしてほろ酔へば雑草そよぐ

ゆうぜんとしてほろよえばざっそうそよぐ

種田山頭火

103

この旅、果もない旅のつくつくぼうし

このたび、はてもないたびのつくつくぼうし

種田山頭火

104

鈴をふりふりお四国の土になるべく

すずをふりふりおしこくのつちになるべく

種田山頭火

105

松はみな枝垂れて南無観是音

まつはみなえだたれてなむかんぜのん

種田山頭火

106

分け入つても分け入つても青い山

わけいってもわけいってもあおいやま

種田山頭火

107

山へ空へ摩訶般若波羅密多心経

やまへそらへまかはんにゃはらみたったしんぎょう

種田山頭火

108

おちついて死ねそうな草萌ゆる

おちついてしねそうなくさもゆる

種田山頭火

109

濁れる水の流れつつ澄む

にごれるみずのながれつつすむ

種田山頭火

110

墓のうらに廻る

はかのうらにまわる

尾崎放哉

111

肉がやせてくる太い骨である

にくがやせてくるふといほねである

尾崎放哉

112

いれものがない両手でうける

いれものがないりょうてでうける

尾崎放哉

113

考えごとをしている田螺が歩いている

かんがえごとをしているたにしがあるいている

尾崎放哉

114

こんなよい月を一人で見て寝る

こんなよいつきをひとりでみてねる

尾崎放哉

115

一人の道が暮れて来た

ひとりのみちがくれてきた

尾崎放哉

116

月夜の葦が折れとる

つきよのあしがおれとる

尾崎放哉

117

海風に筒抜けられて居るいつも一人

うみかぜにつつぬけられているいつもひとり

尾崎放哉

118

春の山のうしろから烟が出だした

はるのやまうしろからけむりがでだした

尾崎放哉

119

芋の露連山影を正しうす

いものつゆれんざんかげをただしうす

飯田蛇笏

120

死病得て爪うつくしき火桶かな

しびょうえてつめうつくしきひおけかな

飯田蛇笏

121

たましひのたとへば秋のほたるかな

たましいのたとえばあきのほたるかな

飯田蛇笏

122

なきがらや秋風かよふ鼻の穴

なきがらやあきかぜかようはなのあな

飯田蛇笏

123

をりとりてはらりとおもきすすきかな

おりとりてはらりとおもきすすきかな

飯田蛇笏

124

くろがねの秋の風鈴鳴りにけり

くろがねのあきのふうりんなりにけり

飯田蛇笏

125

誰彼もあらず一天自尊の秋

だれかれもあらずいってんじそんのあき

飯田蛇笏

126

頂上や殊に野菊の吹かれ居り

ちょうじょうやことにのぎくのふかれおり

原石鼎

127

淋しさに又銅鑼打つや鹿火屋守

さみしさにまたどらうつやかびやもり

原石鼎

128

花影婆娑と踏むべくありぬ岨の月

かえいばさとふむべくありぬそわのつき

原石鼎

129

秋風や模様のちがふ皿二つ

あきかぜやもようのちがうさらふたつ

原石鼎

130

雪に来て美事な鳥のだまり居る

ゆきにきてびじなとりのだまりいる

原石鼎

131

山一つ山二つ三つ夏空

やまひとつやまふたつみっつなつぞら

中塚一碧楼

132

春の昼小さい庭を横切る無頼の猫

はるのひるちいさいにわをよこぎるぶらいのねこ

中塚一碧楼

133

来しかたや馬酔木咲く野の日のひかり

こしかたやあしびさくののひのひかり

水原秋桜子

134

葛飾や桃の籬も水田べり

かつしかやもものまがきもみずたべり

水原秋桜子

135

梨咲くと葛飾の野はとの曇り

なしさくとかつしかのはとのくもり

水原秋桜子

136

啄木鳥や落葉をいそぐ牧の木々

きつつきやらくようをいそぐまきのきぎ

水原秋桜子

137

ふるさとの沼のにほひや蛇苺

ふるさとのぬまのにおいやへびいちご

水原秋桜子

138

冬菊のまとふはおのがひかりのみ

ふゆぎくのまとうはおのがひりのみ

水原秋桜子

139

瀧落ちて群青世界とどろけり

たきおちてぐんじょうせかいとどろけり

水原秋桜子

140

おのが声わすれて久し春の風邪

おのがこえわすれてひさしはるのかぜ

水原秋桜子

141

みちのくの町はいぶせき氷柱かな

みちのくのまちはいぶせきつららかな

山口青邨

142

祖母山も傾山も夕立かな

そぼさんもかたむきやまもゆうだちかな

山口青邨

143

たんぽぽや長江濁るとこしなへ

たんぽぽやちょうこうにごるとこしなへ

山口青邨

144

銀杏散るまつただ中に法科あり

ぎんなんちるまつただなかにほうかあり

山口青邨

145

外套の裏は緋なりき明治の雪

がいとうのうらはひなりきめいじのゆき

山口青邨

146

方丈の大庇より春の蝶

ほうじょうのおおひざしよりはるのちょう

高野素十

147

くもの糸ひとすぢよぎる百合の前

くものいとひとすじよぎるゆりのまえ

高野素十

148

ひつぱれる糸まつすぐや甲虫

ひっぱれるいとまっすぐやかぶとむし

高野素十

149

甘草の芽のとびとびのひとならび

あまくさのめのとびとびのひとならび

高野素十

150

翅わつててんたう虫の飛びいづる

はねわつててんとうむしのとびいづる

高野素十

151

づかづかと来て踊子にささやける

づかづかときておどりこにささやける

高野素十

152

空をゆく一とかたまりの花吹雪

そらをゆくひとかたまりのはなふぶき

高野素十

153

金剛の露ひとつぶや石の上

こんごうのつゆひとつぶやいしのうえ

川端茅舍

154

一枚の餅のごとくに雪残る

いちまいのもちのごとくにゆきのこる

川端茅舍

155

ぜんまいののの字ばかりの寂光土

ぜんまいのののじばかりのじゃっこうど

川端茅舍

156

約束の寒の土筆を煮て下さい

やくそくのかんのすぎなをにてください

川端茅舍

157

咳き込めば我火の玉のごとくなり

せきこめばわれひのたまのごとくなり

川端茅舍

158

朴散華即ちしれぬ行方かな

ほおさんげすなわちしれぬゆくえかな

川端茅舍

159

さみだれのあまだればかり浮御堂

さみだれのあまだればかりうきみどう

阿波野青畝

160

葛城の山懐に寝釈迦かな

かつしかのやまふところにねしゃかかな

阿波野青畝

161

なつかしの濁世の雨や涅槃像

なつかしのじょくせのあめやねはんぞう

阿波野青畝

162

露の虫大いなるものをまりにけり

つゆのむしおおいなるものをまりにけり

阿波野青畝

163

狐火やまこと顔にも一くさり

きつねびやまことかおにもひとくさり

阿波野青畝

164

水ゆれて鳳凰堂へ蛇の首

みずゆれてほうおうどうへへびのくび

阿波野青畝

165

牡丹百二百三百門一つ

ぼたんひゃくにひゃくさんびゃくもんひとつ

阿波野青畝

166

山又山山桜又山桜

やままたやまやまざくらまたやまざくら

阿波野青畝

167

夢の世に葱を作りて寂しさよ

ゆめのよにねぎをつくりてさびしさよ

永田耕衣

168

朝顔や百たび訪はば母死なむ

あさがおやひゃくたびとむらはばははしなん

永田耕衣

169

後ろにも髪脱け落つる山河かな

うしろにもかみぬけおつるさんかかな

永田耕衣

170

泥鰌浮いて鯰も居るというて沈む

どじょうういてなまずもいるというてしずむ

永田耕衣

171

死螢に照らしをかける螢かな

しぼたるにてらしをかけるほたるかな

永田耕衣

172

かたつむりつるめば肉の食い入るや

かたつむりつるめばにくのくいいるや

永田耕衣

173

少年や六十年後の春の如し

しょうねんやろくじゅうねんごのはるのごとし

永田耕衣

174

白梅や天没地没虚空没

しらうめやてんぼつちぼつこくうぼつ

永田耕衣

175

水枕ガバリと寒い海がある

みずまくらがばりとさむいうみがある

西東三鬼

176

算術の少年しのび泣けり夏

さんじゅつのしょうねんしのびなけりなつ

西東三鬼

177

白馬を少女瀆れて下りにけむ

はくばをしょうじょけがれておりにけん

西東三鬼

178

中年や遠くみのれる夜の桃

ちゅうねんやとおくみのれるよるのもも

西東三鬼

179

おそるべき君等の乳房夏来る

おそるべききみらのにゅうぼうなつきたる

西東三鬼

180

露人ワシコフ叫びて石榴打ち落す

ろじんわしこふさけびてざくろうちおとす

西東三鬼

181

広島や卵食ふ時口ひらく

ひろしまやたまごくうときくちひらく

西東三鬼

182

頭悪き日やげんげ田に牛暴れ

あたまわるきひやげんげだにうしあばれ

西東三鬼

183

春暁や人こそ知らね木々の雨

しゅんぎょうやひとこそしらねきぎのあめ

日野草城

184

春の灯や女は持たぬのどぼとけ

はるのひやおんなはもたぬのどぼとけ

日野草城

185

ものの種にぎればいのちひしめける

もののたねにぎればいのちひしめける

日野草城

186

ところてん煙の如く沈み居り

ところてんけむりのごとくしずみいり

日野草城

187

高熱の鶴青空に漂へり

こうねつのつるあおぞらにただよえり

日野草城

188

夏布団ふわりとかかる骨の上

なつぶとんふわりとかかるほねのうえ

日野草城

189

見えぬ眼の方の眼鏡の玉も拭く

みえぬめのほうのねがねのたまもふく

日野草城

190

学問のさびしさに堪へ炭をつぐ

がくもんのさびしさにこたえすみをかつぐ

山口誓子

191

かりかりと蟷螂蜂の皃を食む

かりかりとかまきりはちのかおをはむ

山口誓子

192

ほのかなる少女のひげの汗ばめる

ほのかなるしょうじょのひげのあせばめる

山口誓子

193

夏草に機缶車の車輪来て止まる

なつくさにきかんしゃのしゃりんきてとまる

山口誓子

194

ピストルがプールの硬き面にひびき

ぴすとるがぷーるのかたきもにひびき

山口誓子

195

夏の河赤き鉄鎖のはし浸る

なつのかわあかきてっさのはしひたる

山口誓子

196

海に出て木枯帰るところなし

うみにでてこがらしかえるところなし

山口誓子

197

炎天の遠き帆やわがこころの帆

えんてんのとおきほやわがこころのほ

山口誓子

198

蟾蜍長子家去る由もなし

ひきがえるちょうしいえさるよしもなし

中村草田男

199

降る雪や明治は遠くなりにけり

ふるゆきやめいじはとおくなりにけり

中村草田男

200

冬の水一枝の影も欺かず

ふゆのみずいっしのかげもあざむかず

中村草田男

201

玫瑰や今も沖には未来あり

はまなすやいまもおきにはみらいあり

中村草田男

202

萬緑の中や吾子の歯生え初むる

ばんりょくのなかやあこのははえそむる

中村草田男

203

勇気こそ地の塩なれや梅真白

ゆうきこそちのしおなれやうめましろ

中村草田男

204

葡萄食ふ一語一語の如くにて

ぶどうくういちごいちごのごとくにて

中村草田男

205

永き日のにはとり柵を越えにけり

ながきひのにわとりさくをこえにけり

芝不器男

206

麦車馬におくれて動き出づ

むぎぐるまうまにおくれてうごきいづ

芝不器男

207

向日葵の蘂を見るとき海消えし

ひまわりのしべをみるときうみきえし

芝不器男

208

あなたなる夜雨の葛のあなたかな

あなたなるよさめのくずのあなたかな

芝不器男

209

卒業の兄と来てゐる堤かな

そつぎょうのあにときているつつみかな

芝不器男

210

白藤や揺りやみしかばうすみどり

しらふじやゆりやみしかばうすみどり

芝不器男

211

一片のパセリ掃かるゝ暖炉かな

いっぺんのぱせりはかるるだんろかな

芝不器男

212

昃れば春水の心あともどり

ひかげればしゅんすいのこころあともどり

星野立子

213

ままごとの飯もおさいも土筆かな

ままごとのいいもおさいもつくしかな

星野立子

214

囀をこぼさじと抱く大樹かな

さえずりをこぼさじとだくたいじゅかな

星野立子

215

朴の葉の落ちをり朴の木はいづこ

ほおのはのおちおりほおのきはいづこ

星野立子

216

父がつけしわが名立子や月を仰ぐ

ちちがつけしわがなたつこやつきをあおぐ

星野立子

217

しんしんと寒さがたのし歩みゆく

しんしんとさむさがたのしあゆみゆく

星野立子

218

美しき緑走れり夏料理

うつくしきみどりはしれりなつりょうり

星野立子

219

雛飾りつゝふと命惜しきかな

ひなかざりつつふといのちおしきかな

星野立子

220

寒雷やびりりびりりと真夜の玻璃

かんらいやびりりびりりとまよのはり

加藤楸邨

221

鰯雲人に告ぐべきことならず

いわしぐもひとにつぐべきことならず

加藤楸邨

222

蟇誰かものいへ声かぎり

ひきがえるだれかものいえこえかぎり

加藤楸邨

223

隠岐やいま木の芽をかこむ怒涛かな

おきやいまきのめをかこむどとうかな

加藤楸邨

224

火の奥に牡丹崩るるさまを見つ

ひのおくにぼたんくずるるさまをみつ

加藤楸邨

225

雉の眸のかうかうとして売られけり

きじのめのこうこうとしてうられたり

加藤楸邨

226

鮟鱇の骨まで凍ててぶちきらる

あんこうのほねまでいててぶちきらる

加藤楸邨

227

木の葉ふりやまずいそぐないそぐなよ

このはふりやまずいそぐないそぐなよ

加藤楸邨

228

チチポポと鼓打たうよ花月夜

ちちぽぽとつづみうとうよはなづきよ

松本たかし

229

春月の病めるが如く黄なるかな

しゅんげつのやめるがごとくきなるかな

松本たかし

230

海中に都ありとぞ鯖火燃ゆ

かいちゅうにみやこありとぞさばびもゆ

松本たかし

231

夢に舞ふ能美しや冬籠

ゆめにまうのううつくしやふゆごもり

松本たかし

232

水仙や古鏡のごとく花をかゝぐ

すいせんやこきょうのごとくはなをかかぐ

松本たかし

233

雪だるま星のおしやべりぺちやくちやと

ゆきだるまほしのおしゃべりぺちゃくちゃと

松本たかし

234

美しく木の芽の如くつつましく

うつくしくきのめのごとくつつましく

京極杞陽

235

香水や時折キッとなる婦人

こうすいやときどききっとなるふじん

京極杞陽

236

都踊はヨーイヤサほゝゑまし

みやこおどりはよーいやさほほえまし

京極杞陽

237

春風の日本に源氏物語

しゅんぷうのにほんにげんじものがたり

京極杞陽

238

秋風の日本に平家物語

あきかぜのにほんにげんじものがたり

京極杞陽

239

詩の如くちらりと人の炉辺に泣く

しのごとくちらりとひとのろへんになく

京極杞陽

240

妻いつもわれに幼し吹雪く夜も

つまいつもわれにおさなしふぶくよるも

京極杞陽

241

わが知れる阿鼻叫喚や震災忌

われがしるあびきょうかんやしんさいき

京極杞陽

242

バスを待ち大路の春をうたがはず

ばすをまちおおじのはるをうたがわず

石田波郷

243

吹きおこる秋風鶴をあゆましむ

ふきおこるあきかぜつるをあゆましむ

石田波郷

244

初蝶や吾が三十の袖袂

はつちょうやわがさんじゅうのそでたもと

石田波郷

245

霜柱俳句は切字響きけり

しもばしらはいくはきれじひびきけり

石田波郷

246

雁やのこるものみな美しき

がんやのこるものみなうつくしき

石田波郷

247

霜の墓抱起されしとき見たり

しものはかいだきおこされしときみたり

石田波郷

248

雪はしづかにゆたかにはやし屍室

ゆきはしづかにゆたかにはやしかばねしつ

石田波郷

249

泉への道遅れゆく安けさよ

いずみへのみちおくれゆくやすけさよ

石田波郷

250

今生は病む生なりき烏頭

こんじょうはやむなりきしょうなりとりかぶと

石田波郷

251

火を投げし如くに雲や朴の花

ひをなげしごとくにくもやほおのはな

野見山朱鳥

252

生涯は一度落花はしきりなり

しょうがいはいちどらっかはしきりなり

野見山朱鳥

253

秋風や書かねば言葉消えやすし

あきかぜやかかねばことばきえやすし

野見山朱鳥

254

曼朱沙華散るや赤きに耐えかねて

ひがんばなちるやあかきにたえかねて

野見山朱鳥

255

つひに吾れも枯野のとほき樹となるか

ついにわれもかれののとおききとなるか

野見山朱鳥

256

眠りては時を失ふ薄氷

ねむりてはときをうしなううすごおり

野見山朱鳥

257

雪国に子を生んでこの深まなざし

ゆきごににこをうんでこのふかまなざし

森澄雄

258

除夜の妻白鳥のごと湯浴みをり

じょやのつまはくちょうのごとゆあみをり

森澄雄

259

白をもて一つ年とる浮鷗

しろをもてひとつとしとるうみかもめ

森澄雄

260

ぼうたんの百のゆるるは湯のやうに

ぼうたんのひゃくのゆるるはゆのように

森澄雄

261

西国の畦曼珠沙華曼珠沙華

さいごくのあぜまんじゅじゃけまんじゅじゃけ

森澄雄

262

億年のなかの今生実南天

おくねんのなかのこんじょうみなんてん

森澄雄

263

木の実のごとき臍もちき死なしめき

きのみのごときへそもちきしなしめき

森澄雄

264

紺絣春月重く出でしかな

こんがすりしゅんげついでしかな

飯田龍太

265

春すでに高嶺未婚のつばくらめ

はるすでにたかねみこんのつばくらめ

飯田龍太

266

いきいきと三月生る雲の奥

いきいきとさんがつなるくものおく

飯田龍太

267

大寒の一戸もかくれなき故郷

だいかんのいっこもかくれなきこきょう

飯田龍太

268

父母の亡き裏口開いて枯木山

ちちははのなきうらぐちひらいてかれきやま

飯田龍太

269

一月の川一月の谷の中

いちがつのかわいちがつのたにのなか

飯田龍太

270

かたつむり甲斐も信濃も雨の中

かたつむりかいもしなのもあめのなか

飯田龍太

271

白梅のあと紅梅の深空あり

しらうめのあとこうばいのみそらあり

飯田龍太

272

貝こきと噛めば朧の安房の国

かいこきとかめばおぼろのあわのくに

飯田龍太

273

音楽漂う岸侵しゆく蛇の飢

おんがくただようきしおかしゆくへびのうえ

赤尾兜子

274

広場に裂けた木塩のまわりに塩軋み

ひろばにさけたきしおのまわりにしおきしみ

赤尾兜子

275

鉄階にいる蜘蛛智慧をかがやかす

てつかいにいるくもちえをかがやかす

赤尾兜子

276

ささくれだつ消しゴムの夜で死にゆく鳥

ささくれだつけしごむのよるでしにゆくとり

赤尾兜子

277

降る雪や踵の上の五十年

ふるゆきやかかとのうえのごじゅうねん

藤村多加夫

278

石榴割って医師と言うこのやさおとこ

ざくろわっていしというこのやさおとこ

藤村多加夫

279

年立ちぬ無明にて刻聴きをれば

としたちぬむみょうにてこくききおれば

藤村多加夫

280

病一つ殖やしいよいよ天高し

やまいひとつふやしいよいよてんたかし

藤村多加夫

281

水輪へ急ぐ雪や晩年の母見えて

すいりんへいそぐゆきやばんねんのははみえて

藤村多加夫

282

吾が声のあなた雪降る猫の胴

あがこえのあなたゆきふるねこのどう

藤村多加夫

283

秋風や人は大地に脚を置く

あきかぜやひとはだいちにあしをおく

藤村多加夫

284

一つ年越せり悲しき吐息せり

ひとつとしこせりかなしきといきせり

藤村多加夫

285

楸邨門たる栄光餅が焦げており

しゅうそんもんたるえいこうもちがこげており

藤村多加夫

286

巣燕や寂光院前階まろし

すつばめやじゃっこういんまえはしまろし

藤村多加夫

287

萬緑や死は一弾を以て足る

ばんりょくやしはいちだんをもってたる

上田五千石

288

ゆびさして寒星一つづつ生かす

ゆびさしてかんぼしひとつづついかす

上田五千石

289

もがり笛風の又三郎やあーい

もがりぶえかぜのまたさぶろうやあーい

上田五千石

290

秋の雲立志伝みな家を捨つ

あきのくもりっしでんみないえをすつ

上田五千石

291

渡り鳥みるみるわれの小さくなり

わたりどりみるみるわれのちいさくなり

上田五千石

292

あたたかき雪がふるふる兎の目

あたたかきゆきがふるふるうさぎのめ

上田五千石

293

たまねぎのたましひいろにむかれけり

たまねぎのたましいいろにむかれけり

上田五千石

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