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用語一覧(60件)
吾輩は猫である。名前はまだ無い。
わがはいはねこである。なまえはまだない。
どこでうまれたかとんと見当がつかぬ。
どこでうまれたかとんと見当がつかぬ。
どこでうまれたかとんとけんとうがつかぬ。
何でも薄暗いじめじめしたところで
何でも薄暗いじめじめしたところで
なんでもうすぐらいじめじめしたところで
ニャーニャー泣いていたことだけは記憶している。
ニャーニャー泣いていたことだけは記憶している。
にゃーにゃーないていたことだけはきおくしている。
吾輩はここで初めて人間というものを見た。
吾輩はここで初めて人間というものを見た。
わがはいはここではじめてにんげんというものをみた。
しかも後で聞くとそれは書生という
しかも後で聞くとそれは書生という
しかもあとできくとそれはしょせいという
人間中で一番獰悪な種族であったそうだ。
人間中で一番獰悪な種族であったそうだ。
にんげんちゅうでいちばんどうあくなしゅぞくであったそうだ。
この書生というのは時々我々を
この書生というのは時々我々を
このしょせいというのはときどきわれわれを
捕まえて煮て食うという話である。
捕まえて煮て食うという話である。
つかまえてにてくうというはなしである。
しかしその当時はなんという考えもなかったから
しかしその当時はなんという考えもなかったから
しかしそのとうじはなんというかんがえもなかったから
別段恐ろしいとも思わなかった。
別段恐ろしいとも思わなかった。
べつだんおそろしいともおもわなかった。
ただ彼の掌に載せられてスーと持ち上げれられたとき
ただ彼の掌に載せられてスーと持ち上げれられたとき
ただかれのてのひらにのせられてすーともちあげられたとき
何だかフワフワした感じがあったばかりである。
何だかフワフワした感じがあったばかりである。
なんだかふわふわしたかんじがあったばかりである。
掌の上で少し落ちついて書生の顔を見たのが
掌の上で少し落ちついて書生の顔を見たのが
てのひらのうえですこしおちついしょせいのかおをみたのが
いわゆる人間というものの見始めであろう。
いわゆる人間というものの見始めであろう。
いわゆるにんげんというもののみはじめであろう。
この時妙なものだと思った感じが今でも残っている。
この時妙なものだと思った感じが今でも残っている。
このときみょうなものだとおもったかんじがいまでものこっている。
第一毛をもって装飾されべきはずの顔が
第一毛をもって装飾されべきはずの顔が
だいいちけをもってそうしょくとうれべきはずのかおが
つるつるしてまるで薬缶だ。
つるつるしてまるで薬缶だ。
つるつるしてまるでやかんだ。
その後猫にもだいぶ逢ったが
その後猫にもだいぶ逢ったが
そのごねこにもだいぶあったが
こんな片輪には一度も出会わした事がない。
こんな片輪には一度も出会わした事がない。
こんなかたわにはいちどもでくわしたことがない。
のみならず顔の真中があまりに突起している。
のみならず顔の真中があまりに突起している。
のみならずかおのまんなかがあまりにとっきしている。
うしてその穴の中から時々ぷうぷうと煙を吹く。
うしてその穴の中から時々ぷうぷうと煙を吹く。
そうしてそのあななかからときどきぷうぷうとけむりをふく。
どうも咽せぽくて実に弱った。
どうも咽せぽくて実に弱った。
どうもむせぽくてじつによわった。
これが人間の飲む煙草というものである事は
これが人間の飲む煙草というものである事は
これがにんげんののむたばこというものであることは
ようやくこの頃知った。
ようやくこの頃知った。
ようやくこのごろしった。
この書生の掌の裏でしばらくは
この書生の掌の裏でしばらくは
このしょせいのてのひらのうちでしばらくは
心持に坐っておったが、
心持に坐っておったが、
こころもちにすわっておったが、
しばらくすると非常な速力で運転し始めた。
しばらくすると非常な速力で運転し始めた。
しばらくするとひじょうなそくりょくでうんてんしはじめた。
書生が動くのか自分だけが動くのか分らないが
書生が動くのか自分だけが動くのか分らないが
しょせいがうごくのかじぶんだけがうごくのかわからないが
無暗に眼が廻る。
無暗に眼が廻る。
むやみにめがまわる。
胸が悪くなる。
胸が悪くなる。
むねがわるくなる。
到底助からないと思っていると、
到底助からないと思っていると、
とうていたすからないとおもっている。
どさりと音がして眼から火が出た。
どさりと音がして眼から火が出た。
どさりとおとがしてめからひがでた。
それまでは記憶しているがあとは何の事やら
それまでは記憶しているがあとは何の事やら
それまではきおくしているがあとうなんのことやら
いくら考え出そうとしても分らない。
いくら考え出そうとしても分らない。
いくらかんがえだそうとしてもわからない。
ふと気が付いて見ると書生はいない。
ふと気が付いて見ると書生はいない。
ふときがついてみるとしょせいはいない
たくさんおった兄弟が一疋も見えぬ。
たくさんおった兄弟が一疋も見えぬ。
たくさんおったきょうだいがいっぴきもみえぬ。
肝心の母親さえ姿を隠してしまった。
肝心の母親さえ姿を隠してしまった。
かんじんのははおやさえすがたをかくしてしまった。
その上今までの所とは違って無暗に明るい。
その上今までの所とは違って無暗に明るい。
そのうえいままでのところとはちがってむやみにあかるい。
眼を明いていられぬくらいだ。
眼を明いていられぬくらいだ。
めをあいていられぬくらいだ。
はてな何でも容子がおかしいと、
はてな何でも容子がおかしいと、
はてなんでもようすがおかしいと、
のそのそ這い出して見ると非常に痛い。
のそのそ這い出して見ると非常に痛い。
のそのそはいだしてみるとひじょうにいたい。
吾輩は藁の上から
吾輩は藁の上から
わがはいはわらのうえから
急に笹原の中へ棄てられたのである。
急に笹原の中へ棄てられたのである。
きゅうにささはらのなかへすてられたのである。
ようやくの思いで笹原を這い出すと
ようやくの思いで笹原を這い出すと
ようやくのおもいでささはらをはいだすと
向うに大きな池がある。
向うに大きな池がある。
むこうにおおきないけがある。
吾輩は池の前に坐って
吾輩は池の前に坐って
わがはいはいけのまえにすわって
どうしたらよかろうと考えて見た。
どうしたらよかろうと考えて見た。
どうしたらよかろうとかんがえてみた。
別にこれという分別も出ない。
別にこれという分別も出ない。
べつにこれというふんべつもでない。
しばらくして泣いたら
しばらくして泣いたら
しばらくしてないたら
書生がまた迎に来てくれるかと考え付いた。
書生がまた迎に来てくれるかと考え付いた。
しょせいがまたむかえにしてくれるかとかんがえついた。
ニャー、ニャーと試みにやって見たが誰も来ない。
ニャー、ニャーと試みにやって見たが誰も来ない。
にゃー、にゃーとためしにやってみたがだれもこない。
そのうち池の上を
そのうち池の上を
そのうちいけのうえを
さらさらと風が渡って日が暮れかかる。
さらさらと風が渡って日が暮れかかる。
さらさらとかぜがわたってひがくれかかる。
腹が非常に減って来た。
腹が非常に減って来た。
はらがひじょうにへってきた。
泣きたくても声が出ない。
泣きたくても声が出ない。
なきたくてもこえがでない。
仕方がない、
仕方がない、
しかたがない、
何でもよいから食物のある所まであるこうと
何でもよいから食物のある所まであるこうと
なんでもよいからくいもののあるところまであるこうと
決心をしてそろりそろりと池を左に廻り始めた。
決心をしてそろりそろりと池を左に廻り始めた。
けっしんをしてそろりそろりといけをひだりにまわりはじめた。
どうも非常に苦しい。
どうも非常に苦しい。
どうもひじょうにくるしい。